愛と笑いの林森北路

この文章は、『台湾対抗文化紀行』(晶文社)を執筆時に、全体の色に合わないと僕が判断して、外した章になります。
神田桂一 2022.01.26
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異国の地に自由を求めて移動する人々はいつの時代にも多い。隣の芝生は青く見えるものだ。大抵は、どこの土地にもそれぞれの土地の自由さ、不自由さがあり、対してどこも変わらないという結論に達するのだが、僕が台湾に見た自由さも、ひょっとしたらそのたぐいのものなのかもしれない。

台湾に初めて旅立ったとき、僕は確かに日本でなにもかもがうまく行っていなくて、ふと旅した台湾に自分が求める自由を投影して、手を伸ばした。今思うと、そう考えるのが、妥当なのかもしれなかった。でも、僕は、なんとかそこに本当の自由があるのだということをこじつけようとして、取材を進めたのだった。それは、自分がうまくいっていないということを認めたくないということの証左でもあった。そんなことだから、この本を書くことはやがて行き詰まった。一行も書くことができなくなった。

僕は本当に台湾に自由があるなんて思っていたのだろうか。いったんそう思いだすと、筆がいっさいすすまなくなった。でも、僕は、思い直した。何度目かの訪台でのある男との出会いがきっかけだった。その男との出会いで、僕は台湾はやっぱり自由でいい国だなと思い直したのだ。台湾有数の歓楽街で僕が出会ったその男も、自由を求めて台湾にやってきた。男の商売は客引きだった。それも日本人ただひとりの――。

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